null出版者の観測

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わたしの本づくり手法(4. Re:VIEW編)

原稿へのマークアップは、TeX*1のように精密にやろうとすればきりがないし、xmlのように抽象度を上げすぎると、もはや自分が書の海の中で、何に対して戦っているのかさえわからなくなります。

一方、Markdownで原稿整理したファイルを、そのまま制作担当にDTP入稿するのは、虫が良すぎる話です。その程度の仕事の成果を渡されたって、DTPオペレータは「なんですかこれ。原稿ですか?指定ですか?何語で組めばいいんスか?」と突き返されてしまいます。

プロ/プロ間の暗黙の了解というのは、けっこう容赦がありません。

どうしたら、DTP担当の怒りを買わないところまで、原稿を整理すれば良いのでしょうか?

新詳説DTP基礎 改訂四版 (MdN DESIGN BASICS)

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DTP入稿の要件水準
DTP担当とは、あなたが整理した原稿を、初校に組版してくれる人のことです。一般に、DTPオペレータが作業に着手してくれるDTP入稿原稿には、次のような暗黙の了解があります。

  • 一貫したプレーンテキスト、文字コード、改行コード
  • 完全に整合性の取れたタグの付いたマークアップ(マークアップ言語はxml、LaTeX、後述のRe:view等。自分で定義した場合は詳細な言語仕様書)
  • 書籍を構成する本文以外の指定(図表番号や見出し番号のつけ方、目次、索引、小組、柱、ノンブル、アイキャッチ、ツメ、裁ち落としなど多数ある)
  • 万一、数式が含まれる場合はTeX記法などのエレガントな記法
  • 図版などのイメージ原稿と、イメージへの指定と、図版ファイル(ベクター形式)との合番がわかる一覧
  • 別途、デザイナーさんなどが作成した版面(はんづら)設計書

これらの条件を満たしたDTP原稿の入稿先は、ひと昔前であれば、活版所になります。DTP作業とは、入稿された原稿を見ながら金属活字を1つづつ拾い、文選箱に組んでいった植字工*2の仕事に相当します。

一般に職人気質というのは、前の人の仕事が悪いとへそを曲げ、仕事を引き受けてくれないものです。そこに気をつけながら、編集はどのようなマークアップ状態で、次の工程であるDTP担当に原稿を渡したらよいのでしょうか。


本の原稿ならRe:VIEW入稿がベスト
Markdownに足りないのは、書誌情報など、本(冊子体)を構成する要素を十分に定義できないことです。そこで、本の形態を想定したタグが豊富に用意されている、LaTeX*3を使って、本をDTP制作すればいいんじゃないか? と理系の人は思うかもしれません。それは筋の良い考え方です。

[改訂第7版]LaTeX2ε美文書作成入門

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で、誰が次のような、これでも最小限のLaTeXコードで、原稿整理に取りかかれるのでしょうか。

\documentclass[10.5pt,b5paper]{jbook}
\begin{document}
ここから本の原稿の本文が始まる。
...
今回の832頁の本文(約60万文字)+LaTeXコード(約15万字)入る
...
\end{document}

普通に、着手する手前の段階で挫折するでしょこれ。

確かに、テキストの構造は、ぱっと見でも美しいことがわかります。しかし荘厳すぎて、Markdownのような気易さがありません。

しかしMarkdownでは物足りない。

そこで、本の構成要素くらいはすべてを反映できる、LaTeXとMarkdownの中間くらいの粗度のマークアップ言語はないでしょうか? それが、Re:VIEWです。

Re:VIEWは、正確には、Kenshi Muto氏が開発したオープンソースの書籍制作支援環境のことです。単なるマークアップの仕様ではありません。Re:VIEWの全容の説明と、詳細は、GitHubで知ることができます。

GitHub - kmuto/review: Re:VIEW is flexible document format/conversion system

また、マークアップの記法にだけ着目すると、次に仕様があります。

review/format.ja.md at master · kmuto/review · GitHub


Re:VIEWをTeXやInDesignにつなげば商業出版物を制作できる
Re:VIEWでマークアップした原稿を、次のDTP工程に引き継ぐと、DTP担当はTeXやInDesign*4を使って、印刷所入稿までをアレコレ制作進行してくれます。

ひとまず、原稿をRe:VIEWタグでマークアップしておけば、次の段階としては、サンプルのような初校ゲラを、手元でプリントアウトできます。

★後送(初校サンプル)、許諾待ち

わたしが本をつくる手法も、ほぼRe:VIEWタグを付ける方法で統一されています。コンピューティング環境もそれに合わせて最適化してあるので、時空系がどこにあっても、本を作りつづけることができます*5

DTP入稿後にDTP担当さまがどういう手法で組版するかについては、本の内容によります。数式が多い本だとTeXを使い、図版が多いときはInDesignを使用する場合が多いです。版元さんの意向によって、DTP作業の工数やコスト、品質や入稿仕様などが検討され、DTP手法が決まります。


薄い本なら10分で作成可能
商業出版物とは異なりますが、Re:VIEWを使って、技術系同人誌を制作することもできます。技術同人とは、コミケで流通しているような薄い本の、テクノロジー分野における同人誌です。具体的には、次のような冊子体です。


上の1冊目のタイトルには、ISBN*6が付いていて書店流通可能ですが、下の本などそれ以外の同人本は、通常は書店売りはされずに、コミケに似た技術書典などのマーケットで流通しています。

techbookfest.org

これらの本の著者は、技術書を書きたいというパッションは強いものの、そのための具体的なDTP手法を持ち合わせていない場合が多いです。

そのような場合、kauplanという方が公開している、Web上で動作するRe:VIEW Staterという技術同人向けの出版プラットフォームが使えます。

Re:VIEW Starter

Re:VIEW Staterの入門記事を次に挙げます。

技術系同人誌を書く人の味方「Re:VIEW Starter」の紹介 - Qiita

あなたがエンジニアなら、Re:VIEW Staterを10分で理解し、30分以内にDTP作業を終わらせて、冊子の印刷入稿データを作成できることでしょう。

その分、表現できる仕様は限定的です*7。しかし、誰でも気軽に出版物を制作できる点においては、いらすとやにも似たオープンソース感が今ふうで、好感度が高いです。


>つづく

*1:数学者ドナルド・E・クヌースが開発した組版システム。数式も含めて美しい組版ができる

*2:「銀河鉄道の夜」のジョバンニがやっていたアルバイト

*3:ラスリー・ランポートによるTeXのマクロ。単にTeXで原稿を書くと言った場合、LaTeXを使って本や論文を書くことを指している場合が多い

*4:AdobeのCSに含まれるDTP組版システム。世の本の95%はCSで制作されている

*5:たとえばフンザの安宿で

*6:本を商品として書店に流通させるためのIDコード。出版流通過程ではISBNが本のID識別のかなめになる

*7:判型やデザインは定型のものしか使えないなど