null出版者の観測

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わたしの本づくり手法(10. 今ふうの校正作業)

このシリーズ記事で、DTP入稿するところまでを書きました。今日はそこから話を続けます。

DTP入稿後に、最初に編集が受け取るモノが「初校」というやつです。これまで編集者は、初校校正紙に、校正として、手書きで赤ペンで「直し」の指示を逐一入れていました。しかし、今は、その方法はすたれています。

最近の校正事情
校正といえば、印刷所の校正室に出張校正でカンズメになり、ゲラ刷り(校正紙)に赤ペンを入れながら、「この印刷所は、カツ丼出るのかなあ?」などと思っていたわけですが、それは6世代くらい前の仕事のやり方です。現在は、電子プラットフォーム上で、コンピュータ支援を受けながら、校正作業を進めていくと考えるのが自然でしょう。

その手法について、わたしはコンピュータ書を手がけることが多いので、おそらく先端部分に位置しています。

一方、最新のやり方は、仮想的でもあるので、作業の枠組みを意識しながらやらないと、手戻しになったり、校正がざるになったりするものです。昔からよく言われますが、ざるは何枚重ねてもざるです。そんな校正作業に意味はありません。

少し前の校正風景を振り返る
そこで、「校正必携」や「校正記号の使い方」で解説しているような*1、まず、2世代くらい前に主流だったやり方を要約してから、最新の校正手法について解説します。

標準 校正必携

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校正記号の使い方―タテ組・ヨコ組・欧文組

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2世代前の校正作業
2世代前(5年前を想定)の校正作業とは、次のようなものです。

  1. DTP作業にInDegsin等を使い、組版後は、プリンタ出力した紙に「初校」や「再校」などのスタンプを押したものを、校正紙として編集に渡す(いわゆる出し)。
  2. 編集は、その校正紙(出し)に、手書きで赤ペン*2を入れることで校正作業を行い、DTPに戻す(いわゆる戻し)。
  3. DTPは赤が入って戻された校正紙を見ながら、赤の指定どおりに、手作業で組版ソフトをオペレーションし、次のリビジョンの校正紙を出す。
  4. この出し/戻しを繰り返すごとに、校正紙は初校→再校→3校→念校などとバージョンアップしていき、最終的に印刷所入稿するリビジョン(完版)が完成する。

この手法で初校に赤を入れていくと、かなりの量になります。昔ながらのやり方で、「原稿は初校で直すもの」という意識が、著者や編集に残っていたり、紙に赤ペンで校正しなければ、校正した気にならないからです。

このように、初校が真っ赤になるやり方は*3、努力しているように見えながらも効率は悪いものです、修正のためのDTPにも時間がかかります。

校正が3校では収まらずに、4校や5校まで無駄に引きずられることもあります*4。また、全体を通して用字や表記を統一する作業には無力です*5


最近主流の校正作業
これが、1世代前(3年前を想定)になると、次のようなやり方がスマートだと考えるようになりました。

  1. 校正紙は、紙でプリンタ出力しなくても、トンボ入りpdfを電子化して出せばいいんじゃないか?
  2. 編集は、pdf校正紙に、注釈やメモを使って、修正指示(赤)を入れればいいんじゃないか?
  3. DTPは、編集がpdfに入れた赤を拾って修正すれば、コピペもできていいんじゃないか?
  4. 各種ツールがあるので、たとえば比較したいリビジョンと差分を取って違いだけを表示するとか、全体を通して用語/表記統一するとか、便利なんじゃないか?

つまり、校正紙を、紙のものからpdfベースにすることで、pdfツールが持つ機能性を使って、効率よく校正作業が進められるのではないかと、期待したのです。この方法は、そこそこ悪くなく、現在の多くの編集/DTPの現場では歓迎され、主流になっているかもしれません。

しかし、まだ多くの無駄が潜んでいます。たとえば、

  • すべてモニタ画面上で作業するので、目、肩、腰にくる。モニタだと紙より解像度が低くて見ずらいし、ぱらぱらめくって全体を見ることができない。
  • DTP作業では、いちいちマウスを使って当該箇所を直さなくてはならず、少し古いやり方と比較して、特に効率が良くなるわけではない。
  • 校正記号を使って端的に指図できない。注釈やらメモやらをマウスで開くと、意図のよくわからない指定が、冗長に書かれていてうんざりする。
  • 特に、組版に対する指定は、pdfの注釈/メモでは意図が伝わりにくい*6
  • pdfのようにプロプライエタリな形式のものを加工するのは、面倒。操作を覚えるコストやオーバーヘッドがかかる。

のように、世代が1つ進んだからと言って、ツールに振り回されてしまい、いまひとつはかどりません。

最新の校正手法の考え方
これらを、もう少しスマートにする方法はないでしょうか。わたしがいま、新世代なやり方だと考えている校正手法は、次の通りです。

  • 編集とDTPの境界を変える。編集は初校出し後にも、直接、テキストをいじれるし、DTP入稿以降の組版に関することであれば、DTPが一貫して権限を持てるような仕組みを作る。そうすることで、組版作業をしながらもテキストと組版を同時並行で修正できる。
  • pdf初校出しよりもかなり前の段階から、ブラウザベースである程度組版が確認できるようにする。そうすると、著者らや編集はhtmlでプレビューできるので、すばやく修正を繰り返すことができ、テキストも組版も精度を上げた状態でDTP入稿できる
  • DTP入稿時点での原稿精度が高いと、初校が真っ赤になることがなくなる。また、初校組版自体がどんどん自動組版化していき、DTPの負担を減らせる。

なんだかアジャイル教徒*7みたいなことを書いてますが、実践のコツは単純です。

  • DTP入稿前に、テキスト内容と構造を完全にケリをつけておく。
  • 初校出しまでに通常のスケジュールの倍かけても、初校精度を高くする。初校は組版の微調整を目的として、基本的にテキストの赤は入れない。
  • プラットフォーム要件として、仕上がりイメージのプレビューと、そこから得られたフィードバックをすぐ反映できるイテレーション環境を整備する。

実践のためのプラットフォーム
では、そのような段取りを実践できるプラットフォーム要件とは、どのようなものでしょうか?

  • 編集作業はマークアップベースで、エディタを使ったテキスト中心主義で進める。
  • マークアップ済テキストを、すぐhtmlやxmlでブラウザなどからビューできる。
  • DTP作業は、初校は自動組版と割り切り、見た目の直しは初校に入った赤を見て再校以降に持ち込む。
  • GitHUBのように、テキストベースのリビジョニングとレビューを中心にした、オープンで言いたいことが言える文化を身に着ける。

こうしたプラットフォームは、どこかのメーカーが「編集くん」みたいな名前で売っているわけではなく、売っていたとしても、お仕着せのやり方をそのまま使えるとは思いません。自分の手法は、仕事のやり方に合わせて自分で開発し、細部の自動化など、ブラッシュアップしていく必要があります。

参考として、わたしのテキスト編集作業の概要をまとめます。この全体がプラットフォームです。編集物に合わせて*8、細部を調整しながら使います。

作業工程 環境 重要ツール 関係するツール 作業の概要
原稿整理 Linux, Windows エディタ、ブラウザ perl, pythonなどテキスト処理系 軽くMarkdownしてからRe:VIEWタグをしっかりつける
テキスト内容修正 Linux エディタ、ブラウザ Re:viewコンパイラ 原稿直し⇔htmlプレビューのイテレーション
リビジョン管理 クラウドサーバ Subversion TortoiseSVN 原稿の版数管理。Gitでやることもある
組版ビルド クラウドサーバ Re:VIEW Ruby, TeX, Jenkins 自動組版による初校出し用
初校校正 クラウドサーバ エディタ Re:VIEW 自動組版による初校が出た後もソースはテキストのままなので、テキストベースで編集でき、コミットすればそのつど何度でも自動で初校をビルドできる


ざっと見た感じが、出版というよりも、ソフトウェアの開発工程に近いものです。自動組版生成による初校を戻したあとは、DTP担当による手作業の組版調整が行われるので、作業は不可逆になります。

よって、再校戻し以降は、従来どおりに紙に赤ペンで校正を入れて戻します。しかし、この手法であれば、再校以降に赤が入る頁は、数十頁に1カ所程度まで減らせているので、そのことがDTP担当の負担になることはありません。

以上、やや難解ですが、わたしが実践している今ふうな校正作業についてまとめてみました。

*1:どちらも日本エディタースクール発行の、校正者むけリファレンス

*2:筆記具としての赤ペンに何を使うかは、多くの編集にこだわりがある。わたしは三菱uni-ballゲルが製造中止になってから、SARASAの0.4mmクリップ無し軸に、0.5mmリフィルを換装して使用。しかし5年前に軸が廃番となり、あわてて100本を日本全国から買い集めた。なくしたり、折れたりして損耗するので、それでもあと5年分のストックしかないヤバい

*3:赤字が多いので、校正紙が赤く見える。むかしは校正紙に観音で紙を追加し、さらに天地にも紙を追加して赤字を入れる人もいた

*4:大量の赤は直しきれなかったり、その赤が新たな赤を発生させたりして、収拾がつかなくなる。わたしの経験では、修正が多くて7校まで出してもらったことがある。当然、金と手間がかかる

*5:「...」、「…」、「-」を、すべてダーシ2つ「--」に統一するとか

*6:ここからここまではインデント揃えるとか、この段落の数行にわたって字送りがおかしいとか

*7:顧客を巻き込んでイテレーションを繰り返す開発手法の1つ。オブジェクト指向と並んで、よくわからない考え方の代表として扱われることが多い

*8:数式が多い本の場合、最初のタグ付けと同時に数式コーディングを行うなど